「灯-tou-」のあとがき

【実際出来上がったのは中途半端な「サイレント」】
 この物語を今回描こうと思った時に、当時考えた「サイレント漫画」という形は当然実践しようと思ってました。ただ、当時特に描きたかったのは最後の見開きのシーンで、物語をどう締めるかについてはあまりちゃんと考えていませんでした。なので、とりあえず今回描くにあたってもう一度この物語のイメージを再構築することにしました。具体的には、思いつく言葉をメモ帳に書き出し、その中で絵として使えそうなイメージを抜粋して物語として組み立てていきました。とはいえほぼ話の流れは当時考えたままです。ラスト以外は足すというよりは引く作業でした。そして話が完成したわけですが、ラストシーンを考えた時に思ったのが、「台詞なしで描くとか無理やん」というものでして。。
 読んだ皆さんはわかると思いますが、ラストシーンでは主人公たちが具体的な想いを吐露しています。悲しいとか嬉しいとか、抽象的な表現なら絵で表すことができますが、具体的な想いは…。
 というわけで、あっさり「(完全な)サイレント漫画を描く」という事を捨てました。

 改めてサイレント漫画の難しさを痛感することになりましたが、全編通しでほぼ台詞(モノローグ)がないのに最後だけ出てくるのにはちゃんとした設定上の理由があります。ええ、言い訳ですよ、しかも後付け…。

 本のあとがきでも述べているので重複になりますが、もうすでに亡くなっている千歌と、生きている大輝は存在する世界が異なり、その立場の違いを表した演出として千歌の話をサイレントにし、大輝の話を音ありで描きました。

 後付けとはいえ、この設定はそこそこ気に入ってて、それがラストシーン付近で「声」による演出が効果的になると思ってました。だけど、このあとがきで“後付け”と言ってしまってる以上、効果半減、魅力ゼロになってしまったかなとも思いますし、そもそも出来上がった作品を見てみて、「なんで最後だけ台詞があるんだ?」と作者自身も読み手目線で読むと疑問を抱かざるを得ません。設定を生かしきれないどころか、足を引っ張っている感も否めない出来は完全に作者の実力不足です。。
 見せ方が上手くいかなかった事は今後の課題ですね。
◀14年前にノートに描いたもの。千歌が再び現れて灯ろうを流すところから見開きのシーンは回想部分も含めて、ほぼそのまま描きました。
当時、千歌の事故はトラックが突っ込んでくるって設定でしたが、この状況が今描きかけの漫画のシーンと被るので、少しシチュエーションを変えました。…しかし、14年前も今も「事故=トラック突っ込んでくる」というイメージ。
成長した部分もあれば全然変わらない部分もあるんだと実感します(笑)
 ◀そしてこれも当時の扉絵のシーンだけど、スマホの部分が折り畳みケータイw
向き合うのではなく、背中ごしだというのも、当時はそれなりに意味を考えていたのかなあと思います。サイレント漫画の構想だったためか、絵しかないから詳しいことは不明…。いやいや、ネタ帳なんだから文章でちゃんと書いといてよ、俺(笑)


【物語の舞台について】
 今回の舞台はとある田舎が舞台なので、出てくるのはほぼ自然。というわけでイメージやら、過去に撮った写真やらで間に合わせていたんですが、唯一であり、一番重要なラストの灯ろう流しだけは一度も行ったことがなかったのでイメージだけでは物足りなさを感じ、資料を手に入れるため行ってきました。調べてみると灯ろう流しって結構地方が多いんですよ。遠出をする時間もないので何とか近場で、と探していたら都内で開かれるのを見つけたので行ってきました。(江東区の「旧中川東京大空襲犠牲者慰霊灯篭流し」8月15日)
 自分のイメージでは夏祭りと似たような雰囲気を想像してましたが、実際は少し違う雰囲気でした。想像していた「祭り」だと露店が立ち並び、常にお囃子が流れながら、踊ってる人や神輿が出てきたりとアクティブなイメージですが、灯ろう流しは人々が亡くなった方の名前や願い事を書いて流す落ち着いたもの、それを腰を下ろしてゆったりと見ることができるパイプ椅子が並んだスペースも沢山あって、ご年配の方々がいろいろな思いを馳せながら見ている様子でした。無料で振舞われる麦茶が嬉しかったり、おじいちゃんやおばあちゃん達が「お久しぶり、元気でした?」とか声を掛け合ってる姿を見て貴重な交流の場でもあるんだなと感じたり、こういう肌で感じる感覚というのはやはりその場で感じてみるのが一番ですね。うん、やっぱり行ってよかった。…物語にはその辺全然反映してませんが。。
 
▲風が強かったから灯ろうは端っこへ流れてた(左)
▲お祭りに比べてお年寄りが多く、落ち着いたイメージだった(右)

【「いい話」で終わらすのが好きだけど「いい話」で終わらせたくなかった】
 灯ろう流しのシーン(会場)ではこの世とあの世が交わる場所として、2つの世界の境界を曖昧に描いています。
 灯ろう流しの会場に着いてから、大輝は後ろを振り返ります。いつもの癖というのもありますが、何かを感じて振り返ったのだと思います。そしてその「何か」に向けて手を伸ばします。「何か」もまた大輝に向けて手を伸ばしますが、二人の手が触れ合うことはありませんでした。

 大輝は物語の冒頭で気持ちを整理するつもりで空を見上げます。そして二人で歩いた思い出の場所を回想しながら会場へと向かっていく。気持ちを整理するはずだった大輝は次第に千歌の影を探すようになり、自分がしてきた行動に後悔の色を強めていきます。そして触れることはできない「何か」に手を伸ばした時、大切な人がこの世界のどこにもいないことを再認識したのです。
 千歌は冒頭でバスに乗って現れます。きっとこのバスは普段この道を通る路線バスではなく、千歌を届けるためだけにやってきたんだと思います。なので、このシーンでは普段からとてもお世話になっている漫画描き仲間である鈴木やまはさんのキャラクター本宿さん(バスの運転手)とバスをお借りしました。鈴木やまはさんはよく僕の漫画のキャラを自身の漫画に登場させてくれていて、「いつか自分もやまはさんのキャラを」と思っていたので今回ちょっとだけではありましたが描けてよかったです。人様のキャラを描くのって楽しいです(´∀`)
やまはさん、いつもありがとうございます。


▶1ページ目に登場する本宿さん&バス。この断ち切り具合は計算の上だったんですが、出来上がった本を見たら更に断ち切らてて(泣)でも何とかわかる人にはわかる状態だとは思います。すみません、やまはさん。

 で、その千歌ですが、大輝の灯ろう流しに参加する気持ちを知りバスに乗ってやってきました。そして大輝と同様に思い出の場所を回想しながら最後のデートを楽しみました。会場に着き、普段は恥ずかしがって手も繋いでくれなかった大輝が手を伸ばしてくれた時は嬉しかったと思います。例え触れられないとわかっていても伸ばし返した手には迷いはありませんでした。

 大輝は後悔を抱えながらも「仲川千歌」と書いた灯ろうを流し、見送ります。また千歌も大輝の気持ちに応え、大輝が見送ってくれるこの瞬間に旅立つと決めました。お互い離れ離れになる事にたくさんの未練を抱えていましたが、千歌は最期に大輝の幸せを願いました。一方、大輝は千歌との別れを惜しみます。前向きな言葉をかけることもなく。

 基本的に自分は「いい話」で終わらせるのが好きです。実際この物語も最初のプロットでは、大輝は最後に前向きな言葉を千歌に言うことで終わっていました。だけど何となく違和感を感じたのです。「大切な人が亡くなったのに、こんなに綺麗に終わるものなのだろうか」と。少なくとも直前まで深い後悔を抱えていた大輝が前向きな台詞を言うのは不自然かなと。場合によってはあえて前向きな言葉を言うこともあるのでしょうが、物語の最後の台詞はやはり正直な想いを言わせたかったのです。その結果、『大輝の想い編』のラストはああなりました。また、これは個人的な感覚ですが、去る人より去られた人のほうが寂しいと思ったからでもあります。

 大輝の気持ちだけでなく、いっそ千歌の気持ちも中途半端なサイレント漫画にせず描けばいいのでは、と思う人もいるかもしれません。後付けの設定なんて読み手にはあまり意味を感じないかもしれませんし。実際『千歌の想い編』はほぼサイレントで描いたため読み手からしたら千歌の様々に抱えていていたであろう心情は想像するしかありません。でも、そういう事をわかった上で、自分はあえてこのスタイルで描くことにしました。亡くなってしまった人の気持ちをうかがい知ることはもうできない。という意味で描かなくていいと思ったんです。このあとがきで千歌の気持ちを書いたのは、ここまで読みに来てくれた人達に対する作者なりのアンサーだと思っていただければと思います。

 そして「亡くなってしまった人の気持ちをうかがい知ることはもうできない」という事が今回、自分の描きたかった事でもあります。これについても本のあとがきに書きました。


『その声(おもい)は届いていますか?』
 『その声(おもい)』とは、大切な人への声(おもい)でもありますし、大切な人の声(おもい)でもあります。

 伝え合うことは大切なこと、そしてそれを普段からできたらいいなと思い、普段言葉足らずなじょじろ〜がこの作品にそんなメッセージをこめて描いてみました。この物語を読んだ時にそれを心の片隅にでも抱いてくれたら嬉しいです。

 だから改めてお礼を言わせてください。
✨✨この漫画を読んでくれて、本当にありがとうございました✨✨


【蛇足】
 …ちょっと良い感じにまとめた後なんですが、やっぱり当初描きたかったサイレント漫画を完全な形で出したいという気持ちが完成間近で沸き起こってきたので、近いうちにラストの台詞必須のシーンを描き替えた「完全サイレント漫画」を描くかもしれません。。(一応、出すならpixivと当ホームページ上で公開になると思います。)
 ええ、そういう事です。一時はちゃんと後付けの設定まで考えて『千歌の想い編』と『大輝の想い編』の2本仕立てにしたくせに、結局完全サイレント漫画も作るという気持ちブレブレ振り。といっても内容は98%同じなので、同じ話を3回も読ませられる人の気持ちを完全に無視した自己満状態。

 何かとブレてる作品になってしまいました。

 今後はこんな事がないように気をつけます。なるべく。

 とりあえず現時点で一つ言えるのは、(フルでの)サイレント漫画はもういいかなって事。
描く前はサイレント漫画が描けるかどうかという事に意識が向いていましたが、実際描いてみて感じたのは、出来に関係なく、あっという間に読み終わってしまう虚しさです。1分もかからないかもです。その上描くのはめんどくさいので正直コスパ悪いです。サイレント漫画は物語のワンシーンに入れた方が効果的なのかなあと思いました。

 でもまあ、それを知ることができただけでも描いた意味はあったと思ってます。
 何よりやったことない事にチャレンジするのは楽しいですしね(*´∀`)

 今は特に何も思いついていませんが、今後もチャレンジしながら楽しく描いていくので、こんな「遊び」にまたお付き合いしていただければ嬉しいです(=´▽`=)


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